2010年11月7日日曜日

最近の話31 映画『グラン・トリノ』は深かった

 『グラン・トリノ』
 監督、主演はクリント・イーストウッド。
 この映画で、クリント・イーストウッドは俳優業から引退するんだって。








 ちなみに、この予告では全く内容の良さが出てないけどね。(汗


 この映画が描こうとしているモノは、とても現実的で複雑なのだが、それを指摘している映画評論は全くといって言い程見当たらない。
 下記の知識が無かったら、この映画の良さ・面白さを、その切れ端ほども理解出来ないんじゃないだろうか?


 2009年のGMの破綻により、その印象は薄くなってしまったが、アメリカは何といっても自動車産業の国だった。
 GM・フォード・クライスラー。
 だがしかし、実は、自動車産業へは、ロシア系・東ヨーロッパ系人種などの移民しか関わっていないことを、知っていただろうか?
 映画タイトルにもなっている、『グラン・トリノ』もフォードの車だが、そのフォードを経営していたのもアイルランド系の人種。
 そこに更に黒人労働者が入って来るのだが、そうすると、アメリカの白人エリート層は一切自動車産業には関わっていないことになる、、、。

 さて、自動車が最大の工業製品であった、50年代・60年代のアメリカは、一種社会主義のような国で、労働者が大変厚遇されており、自動車組立工を職業とする移民のポーランド人ですら別荘を持つ程、金を持っていた。
 これが、主人公のコワルスキー(イーストウッド)にあたる。
 日本では考えられないが、移民が自動車を組立てる仕事で別荘を持つほど収入が良かったのだ。
 そして、その子供は親が金を持っているから大学へ行く。すると、大学を出た人間ならば、もちろん自動車組立工には就職せず、別の仕事へ就く。別の仕事へ就く訳だから、もちろんその工業地帯からは出て行き、別の場所で家庭を持って暮らし始める。
 そして、その地域(デトロイト)には子供の出て行った老夫婦などしか暮らしていないのだ。
 この映画の舞台は、そのミシガン州のデトロイト。
 主人公のコワルスキー(イーストウッド)は、自動車工を引退したポーランド系米国人と、上記と映画設定がピタリと一致している。

 この映画の設定では、そのデトロイトの空き家に、モン族というアジア系人種が多数移住していることになっている。
 このモン族という人種は、もちろん実際にアメリカに移住している民族だ。
 ラオスにいた民族で、ベトナム戦争の時に、アメリカ側として戦った。それはアメリカの戦略の一つだったのだが、そのベトナム戦争は、アメリカ軍が撤退して終わっている。
 その時、アメリカはラオス民族をそのまま残して撤退しているのだ。そうなると当然ラオス民族はベトナムの報復を受け出し、タイへ数十万人が亡命した。それは勿論、アメリカに責任がある訳だから、仕様がなくそのラオス民族をアメリカに移住させることにした。(1980年代~90年代)
 そのラオス民族が、この『グラン・トリノ』に出てくるモン族になっている。

 この映画を見る上で、更に、近年のアメリカの自動車産業についての知識もあると更に興味深く見れるだろう。
 というのも、主人公の息子が日本車のセールスマンをしているからだ。
 今と昔の自動車産業では、全くの別物として存在している。
 それを説明するには、ブッシュ政権について触れることになってしまう。
 ブッシュ政権が貿易規制を全くしなかったことにより、安い中国の製品がなだれ込むようにアメリカ国内に入ってきて、一気に国内の工場が閉鎖してしまった。
 つまり、簡単に言えば、国内の工場が中国に移ってしまい、中国輸入製品が国内の雇用を奪ってしまい空洞化が起こってしまったのだ。
 逆に言うと、中国の近年の経済成長の背景には、アメリカが輸入規制をしなかったという、ブッシュ政権の暴走が大きく影響している。
 その空洞化を、そのままにしておく訳には行かず、アメリカは日本製の自動車工場の誘致を始めていった。
免税などの誘致により、日産・トヨタ・ホンダの自動車工場がアメリカにドンドン出来ていった。そうして労働者の雇用を確保した。
 日本人はこういった感覚をあまり持っていないが、アメリカで売られている日本車はアメリカ製で、売れれば売れる程アメリカが儲かる仕組みになっているのだ、、、。



 この上記で書いた、自動車産業(経済)の変化。そしてモン族とのカルチャーギャップ。更に家族内のジェネレーションギャップ。
 これは決して日本人には遠い問題だとは思わない。
 老人の一人暮らし問題でもあるし、移民(モン族)の社会的立場の問題でもある。日本の移民政策もどうなるか分からない訳なんだし。

 妻を失った孤独な老人コワルスキー(イーストウッド)の周りに存在する様々な社会問題。
 もちろんその答えは映画の中でも出なかったし、現実も出ないと思う。

 ただこの映画を観ていると、色々と問題を持った未来図が、頭の中に浮かび上がってきたのだが、、、。とても面白い時間だった。
 『硫黄島からの手紙』は僕的にはイマイチだったが、この『グラン・トリノ』は相当面白い映画だった。

 思いのほか長く書いてしまった。(汗
 上記に書いたのは、受け売り知識の継ぎはぎです。
 参考にしてください。

 読んでくれて、どうもありがとう!!





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